創業者は腎臓内科医ですが、創業当初には腎臓病の治療薬は極めて少ない状況でした。当社は、腎臓病の治療薬の開発を目標に掲げて創業されたため、「腎臓(renal)の科学(science)」という意味でレナサイエンス(Renascience)と名付けられました。また、レナサイエンスは、「ルネッサンス(復興)、renascence」の意味を兼ねています。
医薬品は必ずしも必要な医療分野で開発されているわけではなく、腎臓病のように開発が困難な領域(有効性の評価に時間がかかるため実施が困難)や希少疾患(患者数が少ない疾患で売上が少ない)での医薬品開発は遅れています。そこで、現在当社は、開発が困難な領域や希少疾患での医薬品開発に積極的に取り組んでいます。
当社は医療課題を解決し、ヒトが心身共に生涯にわたって健康を享受できるための新しい医療を創造したいと考えています。特定の技術に特化したベンチャーではないので、モダリティは特に問いません。
医薬品産業は、低分子医薬品を中心とした開発から、バイオ医薬品へと多様化しつつあります。さらに、近年の工学系や情報系技術の進歩により、情報・工学技術との融合による新たな医療の模索も進んでおり、欧米や国内の大手製薬企業では既に医薬品単体のビジネスから医療ソリューション全般にわたるビジネスへの転換を迎えています。医薬品、医療機器、さらには人工知能(AI)を活用したプログラム医療機器やアプリなど、医療での治療オプションも広がりつつあります。
そのため、これまでの当社の主体である化学系や生物系の研究に加えて、工学系や情報系の研究にも視野を広げ、多彩で魅力ある研究と事業のポートフォリオを創出したいと思います。
世界保健機関(WHO)では、高齢化や生活習慣に伴う重要な疾患(老化関連疾患)を「非感染性疾患(NCDs)」として位置付け、がん・糖尿病・呼吸器疾患・循環器疾患の4つの疾患が対象となっています。全世界の死亡者の70~80%がこれら疾患で亡くなっているといわれています。当社の開発品目は、これら4疾患を全て対象としています。
医薬品開発は、成功確率が低く、開発期間が長く、多額の投資を必要とするため、研究開発リスクが大きい分野です。そのため、多くのパイプラインを組み合わせたポートフォリオ形成によるリスク分散が重要となります。近年の医療イノベーションでは、大学等の研究機関が有する先端技術や創薬シーズ、医療機関が有する臨床データや医療現場の知見を活用することが重要になっています。
当社は、大学や医療機関等との連携を積極的に推進し、外部の知見・技術・データを活用するオープンイノベーション型の研究開発モデルを構築しています。また、当社開発の化合物を研究者へオープンリソースとして提供することで、研究者は新たな研究テーマとして活用することができ、特許出願後には学会発表や論文発表、研究費申請なども可能としています。このような研究者との協働を通じて、多様な知見を取り込み、新たな創薬シーズの創出につなげています。
このような外部リソースの活用により、自社のみで全ての開発機能を構築する場合と比較して、限られた人的・資金的リソースでも効率的に多くのパイプラインを展開し、研究開発リスクを分散することが可能となります。
当社は、大学や様々な企業・研究機関との連携や協業を通じて、効率的なイノベーション創出を推進しています。
当社は2022年1月、東北大学大学院医学系研究科メディシナルハブ(宮城県仙台市青葉区星陵町2-1 医学部5号館)に東北大学レナサイエンスオープンイノベーションラボ(Tohoku University x Renascience = TREx)を開設しました。
当社は創業当時、腎臓病の疾患動物モデル飼育施設を含む研究所を神奈川県・川崎バイオ特区に有していました。その後、研究対象が腎臓病から多くの疾患領域に拡大し、研究段階が基礎から治験へ進むにつれ、当初の腎臓病の疾患動物モデルを主体とした研究所は閉鎖しました。
しかし、多くの疾患領域に対する最先端の科学技術成果の活用の「場」、医師や研究者とのFace to Faceの交流の「場」、行政や医療産業企業とのオープンイノベーションの「場」が必要であると考え、TRExの開設に至りました。 TRExは2021年4月に締結された「仙台市と東北大学との地域経済発展に関する協定」に基づく拠点立地の第一号案件でもあります。TRExでは、1)東北大学大学院医学系研究科の研究者、東北大学病院の医師、メディシナルハブに参画する企業、行政など異業種との連携が加速され、2)既存の開発パイプラインの研究推進と複数の新規シーズの導入ができ、3)医師主導治験の実施、医療データの取得、公的資金獲得、許認可戦略の立案などを効率的、迅速に対応できており、4)人材の育成と確保にも繋げられています。当社の強みである研究開発の高い効率性をさらに加速することができています。
2023年4月に広島大学と包括的連携協定を締結し、TRExに続いて広島大学レナサイエンスオープンイノベーションラボ(Hiroshima University x Renascience = HiREx)を開設しました。HiRExを活用して、非小細胞肺がんや皮膚血管肉腫など医薬品の医師主導治験、糖尿病治療支援AIや維持血液透析医療支援AIなどのプログラム医療機器の臨床性能試験など複数の臨床試験を実施します。
健康寿命を延ばすことができた研究チームに対して、総額1億米ドルを支払うという 世界的なコンペティションです。XPRIZE 財団が主催し、人間の老化や長寿に対する治療アプローチに革命を起こし、健康寿命を積極的に 10 年以上延伸するという挑戦的な課題 に取り組むことを目的としています。( https://www.xprize.org/prizes/healthspan )
超高齢社会の進展に伴い、健康寿命の延伸は世界共通の重要な社会課題となっています。当社は、医薬品やAIを活用した医療技術の研究開発を通じて、高齢者が健康で自立した生活を送ることのできる社会の実現に貢献したいと考えています。
また、大学・医療機関・行政・企業とのオープンイノベーションを推進し、研究成果の社会実装や医療イノベーションの創出、人材育成、学術活動にも積極的に取り組んでいます。これらの活動を通じて健康長寿社会の実現に貢献することを、当社の社会的責任(Corporate Social Responsibility:CSR)の一つと考え、今後も研究成果の発信や啓発活動を継続してまいります。
□東北大学懇話会2026年「萩の夕べ(国際卓越研究大学第一号の挑戦)」における講演
・2026年2月27日 東北大学懇話会2026年「萩の夕べ」
東北大学主催の東北大学懇話会2026年「萩の夕べ」(会場:丸ビルホール)において、当社代表取締役会長兼社長(東北大学大学院医学系研究科教授)宮田敏男が、「東北から長寿社会を実現:長寿医薬品の開発」をテーマに講演を行いました。講演では、当社が開発を進める老化細胞除去内服薬(セノリティック薬)であるPAI-1阻害薬RS5614について、抗加齢・長寿医療への応用可能性や、健康寿命延伸に向けた研究開発の取り組みを紹介しました。
□第6回 MICHINOOKセミナー「超高齢社会に挑む産学連携ライフサイエンス ー 脳・分子・創薬・AIが切り拓く未来ー」における講演
・2026年1月27日 第6回 MICHINOOKセミナー「超高齢社会に挑む産学連携ライフサイエンス」
東北大学主催の第6回MICHINOOKセミナー(会場:日本橋ライフサイエンスハブ)において、当社代表取締役会長兼社長(東北大学大学院医学系研究科教授)宮田敏男が、「老化細胞除去薬(セノリティック薬)の開発」をテーマに講演を行いました。講演では、PAI-1阻害薬RS5614の免疫系を介した抗老化・長寿医薬品としての可能性や臨床開発状況、国際的な健康寿命延伸プロジェクト「XPRIZE Healthspan」への参画について紹介しました。
□キング・アブドラ国際医療研究センター、JPモルガン・アセット・マネジメント株式会社開催の「ライフサイエンス・イノベーション・フォーラム2025」における講演
・2025年10月1日 ライフサイエンス・イノベーション・フォーラム2025
サウジアラビア・リヤドで開催された「ライフサイエンス・イノベーション・フォーラム2025」において、当社代表取締役会長兼社長(東北大学大学院医学系研究科教授)宮田敏男が招聘され、講演及びパネルディスカッションに参加しました。医療イノベーションにおける大学・研究機関・スタートアップ企業の役割や国際共同研究のあり方について発表するとともに、当社が開発を進めるPAI-1阻害薬RS5614について紹介しました。
医薬品開発において重要なことは安全性と有効性の確認です。安全性は、一般毒性や遺伝毒性など薬事規制上で決められた試験に従い実施するので、時間と資金があれば対応可能です。一方、有効性の評価は単純ではなく、医薬品がどの疾患に有効かを見出すことは難しい課題です。
1つの医薬品の開発には多くの時間と費用がかかります。当初想定された疾患での有効性は得られなくても、別の疾患には有効である可能性はあるので、多くの疾患で医薬品の効能性を検討することが、成功確率を高める(失敗しない)上でも重要になります。この医薬品の適応疾患を広く検討すること(ドラッグリポジショニング)は難しく、全ての疾患で検討することは現実的に無理です。
当社は、国内外の公的研究機関に所属する研究者に当社開発の化合物を「オープンリソース」として提供しています。最先端の基礎研究を展開する様々な領域の研究者と共同で開発できる当社の枠組みは、自社の限られたリソースのみで基礎研究を行うより、遥かに効率的かつ広範囲にわたったドラッグリポジショニング研究が実施できます。
当社の臨床試験は、研究者でありかつ医師であるphysician scientistによる医師主導治験です。 医師主導治験の圧倒的な利点は、「質」と「スピード」、すなわち「効率」です。
医師主導治験では、最新の研究成果に触れることが可能な研究の最前線にいて、医療現場では患者を日々診療している医師が、適切な患者対象と試験計画を立案することができます。また、医師自ら治験を実施できるので、未承認薬の初期段階の治験(有用性や安全性を最初に確認する段階で、探索的臨床試験と言われる)には、適した治験の枠組みです。また、オーファン疾患(希少疾患のこと。患者数が少ないので売上も多くを望めない。)の治療薬開発は、収益性が低いために製薬企業が着手しないことから、最初から最後まで医師主導治験で行わざるを得ない場合もあります。研究開発費用のほぼ大半は、基礎研究段階では無く、臨床開発段階で費やされるものです。 医師主導治験は、最先端の大学等の科学技術成果を速やかに活用でき、治療の対象となる患者を治験実施医師が適切に選択できることから、開発コストを削減できます。
適切な治験調整医師を見出し、大学など複数の大きな医療機関の支援を得られた場合、企業治験に比べて医師主導治験は大きなアドバンテージがあり、短期間に大型の治験も実施できるために、当社は他社と異なりこの治験の形を優先しています。
当社の医薬品開発においては、非臨床試験はGLP(Good Laboratory Practice、医薬品の安全性の実施に関する基準)、治験薬の製造は治験薬GMP(Good Manufacturing Practice、治験薬の製造管理及び品質管理に関する基準)を遵守して実施しています。また、医師主導治験は、企業治験と同様にGCP(Good Clinical Practice、医薬品の臨床試験の実施に関する基準)を遵守して実施しています。そのため、承認申請や許認可を得る上で使用することができます。
当社は、国内外の大学などの公的研究機関に所属する研究者に当社開発の化合物をオープンリソースとして提供し、医薬品の適応疾患の拡大可能性を広く検討すること(ドラッグリポジショニングという)を効率的に実施することで、数多くの医薬品のパイプラインを増やすことに成功しています。
臨床開発候補品でない化合物はサンプル提供契約(Material transfer agreement, MTAという)で提供し、臨床候補化合物は共同研究契約(研究の許諾実施、知的財産取り扱い、事業化後の対価還元などを包括する契約)の下で提供します。当社のプロジェクトに関して、オープンリソースとして MTA下で提供した化合物などを用いて研究を行った機関は、科学論文として公開されているものだけで、創業時以降100以上の研究機関に至ります。これら多くの国内外の共同研究から思いもよらなかったようなシーズ(コンセプト)が生まれています。
当社では、下記の表に記載する「科学性」「医学性」「経済性(事業性)」及び「時間軸」の4つを総合的に勘案し、パイプライン開発を決定しています。

当社は、大学などの公的研究機関と共同研究を実施しているので、知財は基本的に大学等との共同出願(共願)となります。大学等の職務発明規定を遵守の上で、大学産学連携部門(知財部門)と協議を重ね、学内ルールに従った知財出願、管理、運用が求められます。また、発明者、出願人、権利の持分比率、費用負担、さらには実施権許諾の条件(範囲、対価)などを合意の下に知財を出願します。これら交渉と合意にはかなりの時間(数ヶ月)を要するために、それら期間を想定した知財出願計画を策定する必要があります。
当社の知財は、国内に加えて事業が想定される多くの国外も含めて対象国を決める必要があり、また物質特許に加えて用途特許、用法・用量特許など、関連する複数の知財を適切にかつ継続的に出願、維持管理、運用しています。
医療分野への人工知能(AI)の応用は大きな可能性を秘めたテーマですが、研究開発に重要な役割を担うステークホルダーが、個々に課題を抱えている状況です。
医師(医療機関)は、医療の課題や問題(ニーズ)を熟知し、豊富な医療データやアイデアなどを有してはいるものの、AIの手法やITベンダーとのネットワークが乏しく、研究開発に具体的に着手できない状況です。一方、AI技術を有するITベンダーは、成長が見込める医療分野への応用に興味はあるものの、医師(医療機関)とのネットワークが少ないために医療ニーズや医療データにアクセスしにくいこと、さらに薬機法など薬事行政の経験も不充分なために実用化は簡単ではありません。さらに、AIの医療応用を事業化したいと考える出口の製薬・ヘルステック企業も、研究から事業開発まで自社単独で全て対応することは時間的にもリソースの観点からも困難な場合も多いといえます。
そこで、課題を有する医師(医療機関)、AI技術を有するITベンダー、出口の製薬・ヘルステック企業が、当初から連携し開発を進める枠組みが重要になります。AIを活用したプログラム医療機器のプロダクトライフサイクルは医薬品ほど長くないため、効率的な研究開発には開発初期から許認可や実臨床への出口を見据えた計画が不可欠になります。そのためにも、異分野分業のオープンイノベーションが重要で、医師に加えて、データサイエンティスト、AI研究者、薬事専門家が連携して取り組む必要があります。
当社は、多くの医師主導治験の実施の過程で多数の医療機関や複数の診療科とのネットワークを構築しており、医療課題や医療データにアクセスしやすいこと(医療面でのサポート)、オープンイノベーションを通して複数のIT企業と共同研究事業契約を締結できていること(技術面でのサポート)、医薬品の医師主導治験を実施する過程で薬事規制にも対応できることなど利点を有しています。
医療AIの研究開発に不可欠な要素は、1)医療課題、2)医療データ(質と量)、3)AIアルゴリズム(エンジン)です。優れた技術があっても、医療現場のニーズに合致せず、医療現場での使用に課題があるなどの理由から、実用化が難しい事例は多く、技術を有する多くの企業で直面する問題です。
近年、医療現場のニーズを出発点として問題の解決策を開発し、医療現場で最終プロダクトをイメージして最適化を行う「バイオデザイン」という手法が注目されています。AIをコア技術とするプログラム医療機器も同様で、AI技術は勿論重要ですが、医療データの対象は機械ではなく個人差のある患者です。医療課題、医療データ、医療現場での医師の助言に基づくAIのカスタマイズが極めて重要になります。
AI研究における必要不可欠なマテリアルは医療データです。AIは多数のデータから法則性を発見するため(帰納推論)、充分な量のデータが必要であることは間違いありませんが、データ量に加えてデータの質も重要です。 さらに、解決すべき医療課題と活用する医療データの種類に基づいて、最適なAIアルゴリズムを選定する必要があります。特定のAIアルゴリズムを活かせる医療分野を探すのでは無く、特定の医療課題を解決するために「最適なAIアルゴリズムを選定(場合によっては独自に開発)」する必要があります。また、AIアルゴリズムが決定できた後、データさえあればデータサイエンティストはAIで分析することができますが、その結果が正しいのかどうかを解釈、判断できるのは医師のみです。従って、医師の関与がない限り、質の良い医療データをAIに学習させ、課題を解決することはできません。
医師、データサイエンティスト、AI研究者の連携が重要で、医療課題、医療データ、経験・知見が存在する医療現場(医師)の積極的な関与がAIによる医療課題解決の成功の鍵となります。
人工知能の医療応用についての研究開発を推進するため、2022年11月にはNECソリューションイノベータ株式会社(NES)との基本合意書を、また2023年6月には日本電気株式会社(NEC)との共同研究契約書(基本合意書)を締結しました。
当社は、国内外の大学などの公的研究機関に所属する研究者に当社開発の化合物をオープンリソースとして提供することで、自社の限られたリソースの中で医薬品の適応疾患の拡大可能性を広く検討すること(ドラッグリポジショニングという)を効率的に実施しています。自社リソースを特に必要としないので、非臨床試験(疾患動物モデルでの試験)のプロジェクト数に制約はありません。臨床開発は医師主導治験で実施し、医薬品開発業務受託機関 (Contract Research Organization、CRO)などを活用するため自社の人的リソースも少なくて済みます。
2024年度の治験実施数は10件、2025年度の治験実施数は9件(うち臨床性能試験1件)、2026年度の治験実施予定数は7件と順調に実施しています。今後も継続的に少なくとも年間5件程度の治験を医師主導で実施することを目標として掲げています。
臨床開発段階の進んだパイプライン開発の優先順位が高いです。
医薬品ではプラスミノーゲンアクチベーターインヒビター1(plasminogen activator inhibitor-1, PAI-1)阻害薬のがん領域及び呼吸器領域での開発に注力しています。がん領域では、慢性骨髄性白血病、悪性黒色腫は第Ⅲ相試験実施中、非小細胞肺がんは後期第Ⅱ相試験を実施中、膵臓がんが第Ⅱ相試験を実施中です。また、皮膚血管肉腫については第Ⅱ相試験を終了し、良好な結果を得たことから第Ⅲ相試験に向けた準備を進めています。呼吸器領域では、新型コロナウイルス肺傷害及び全身性強皮症に伴う間質性肺疾患が第Ⅱ相試験終了しました。
医療機器(極細内視鏡)の研究開発はほぼ終了しており、メイン部分のファイバースコープに関しては2022年12月に承認が降り、付属部分のガイドカテーテルの開発はほぼ完了したので、27年3月期中に薬事承認申請を実施する予定です。
人工知能(AI)を活用したプログラム医療機器に関しては、糖尿病治療支援AIや維持血液透析医療支援AIなどのプログラム医療機器の開発が先行しています。2024年より承認申請のための臨床性能試験を開始し、現時点で、臨床性能試験は完了し糖尿病及び透析でPOCを獲得しています。
PAI-1の発現が高いがんは悪性度が高く、予後不良であることがわかっています(’PAI-1パラドックス’)。当社は、PAI-1ががん細胞の免疫チェックポイント分子(PD-L1など)の発現を促進することを共同研究で見出しました。当社のPAI-1阻害薬の投与でがん細胞の免疫チェックポイント分子の発現が低下し、腫瘍内の細胞障害性T細胞の浸潤が増加し、腫瘍関連マクロファージを抑制することも大腸がんや悪性黒色腫マウスモデルで明らかになりました。
これら非臨床試験の成績に基づき、悪性黒色腫の第Ⅱ相試験を実施し、想定通りの有効性を確認することができました。ニボルマブ不応答の悪性黒色腫患者に、ニボルマブとRS5614を8週間併用したところ奏効率24.1%(7/29例)という結果が得られました。この成績は既存のニボルマブとイピリムマブ併用の奏効率を上まわる結果でした(本邦におけるニボルマブとイピリムマブ併用の奏効率は13.5%)。また、このコンセプトに基づいて、非小細胞肺がんを対象とした第Ⅱ相医師主導治験を実施しました。3次治療以降の患者さんを対象として実施した結果、症例全体での有意差を確認することはできませんでしたが、そのうち 3 次治療として本治験治療を受けた 11 例で評価すると、奏効率 18.2%、6 か月無増悪生存割合 27.5%と高い有効性を示す結果が得られました。PAI-1パラドックスが実際にがん治療でも関与しており、一部のがん種ではPAI-1阻害薬の併用が有効であることを確認します。
ヒトのPAI-1分子の結晶構造を基に、コンピューター工学を利用した約200万バーチャル化合物ライブラリーの探索から96個のPAI-1阻害候補化合物を取得しました。PAI-1活性阻害作用を指標として、新規阻害化合物を10年以上かけてこれまで1,400個以上合成し、薬効をスクリーニングした上で、さらにそれらの有効性や安全性などを評価する中で、安全性に優れた経口投与可能なリード化合物であるRS5275を取得しました。RS5275からさらに合成展開を行い、4つの臨床候補化合物RS5441、RS5484、RS5509、RS5614を取得しました。その中で最終的にRS5614を臨床開発候補化合物として選択しました。
過去に国内外大手を含む多くの製薬会社やバイオベンチャーが低分子PAI-1阻害薬の開発に取り組みました。幾つかの薬剤はマウスやラットの動物モデルで有効性が報告され、PAI-749(Diaplasinin)は臨床ステージまで進みましたが、ヒトでの効果は見られず、臨床第Ⅰ相試験で開発は中止されました。
非臨床試験では、安全性薬理試験(hERG試験、ラットの中枢神経系、サルの心血管系及び呼吸器系試験)、一般毒性試験(ラットの26週間の経口投与試験、サルの39週間経口投与試験)、遺伝毒性試験、光毒性試験、生殖・発生毒性試験を実施して、臨床試験や承認申請をする上で問題ないことを確認しています。
第Ⅰ相単回投与試験では、RS5614の240mgまでの安全性が確認され、第Ⅰ相反復投与試験においては120mgを7日間経口投与した際に発現した有害事象はいずれも軽度でした。RS5614は、これまでに200名を超える被験者(健康人、慢性骨髄性白血病、新型コロナウイルス肺傷害、悪性黒色腫など)に投与され、慢性骨髄性白血病では1日180mg、48週間の投与(33例)が実施されましたが、治験薬が関連する問題となる重篤な有害事象は報告されておらず、安全性の高い医薬品と考えられます。
血液がんの一種である慢性骨髄性白血病(CML)は、造血幹細胞の染色体に異常が起こり、がん化した白血病細胞(CML細胞)が無制限に増殖することで発症します。
CMLに対する治療薬はチロシンキナーゼ阻害薬TKI(イマチニブなど)が主流ですが、TKIは、CML細胞には作用しますが、骨髄のニッチと呼ばれるところに潜み、CMLの元となるCML幹細胞には作用しないことから、TKIを休薬するとCML細胞が増殖し、CMLの根治には至りません。 PAI-1阻害薬はCML幹細胞に作用して、TKIの作用を増強させることで、CMLの根治をもたらすことが明らかとなりました。実際に、CMLモデルマウスにRS5614とTKIを併用すると、TKI単独投与に比べて骨髄に残るCML幹細胞数が著明に減少し、生存率が大きく向上しました。
TKIの開発によりCML患者の予後は大きく改善しましたが、CMLを治癒するためには長期にわたる高額なTKI治療の継続が必要です。長期継続服用による副作用も問題となっています。そこで、可能な限り早期にTKI服用を必要としない治癒(Treatment free remission、TFR)に導くことが重要です。 RS5614は、早期に多くのCML患者をTFRに導く新たな作用機序の安全な医薬品と期待されます。
前期第Ⅱ相試験では、TKI治療を2年間以上実施しているCML患者を対象に、RS5614 120mg/日、4週間併用投与(TKIは12週間継続)することにより、12週間後のDMR(Deep molecular response:最も高い治療効果)達成率を指標とする医師主導治験を東北大学、秋田大学、東海大学において実施しました。21例が組み入れられ、脱落や中止例はなく、全例が解析対象例となりました。主要評価項目の結果は、21例中DMRを達成した症例は4例で、12週時の累積DMR達成率は20.0%でした(これまでのTKI単独投与による3か月時点での平均的累積DMR達成率は2.0%(TKIだけでの治療を受けた場合を、ヒストリカルコントロールという))。安全性評価では、解析対象例の全21例に副作用は認められませんでした。
後期第Ⅱ相試験では、CML患者を対象にTKIとRS5614(150mg/日より開始し、180㎎/日に増量可)を併用し、RS5614投与開始後48週のDMRの累積達成率をヒストリカルコントロール8.0%と比較して33.0%が期待できることを確認することと、RS5614及びTKIの長期併用時におけるRS5614の薬物動態及び安全性の確認を目的に実施しました。33例中DMRを達成した症例は11例で、48週時の累積DMR達成率は33.3%でした(期待と同等以上の結果(POC)でした)。安全性は、治験薬との因果関係で重篤な有害事象はありませんでした。
後期第Ⅱ相試験の成績に基づいて、東北大学、東海大学、秋田大学など12の大学等の医療機関と共同で慢性期CML 患者を対象にTKIとRS5614の併用効果を検証するプラセボ対照二重盲検の第Ⅲ相医師主導治験を実施中です。本試験は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の令和4年度「革新的がん医療実用化研究事業(東北大学が研究代表機関であり、当社も分担研究機関として参画)」に採択されました。
独立行政法人医薬品 医療機器総合機構(PMDA)と2021年11月及び同年12月に対面助言を行い、2022年5月にPMDAに治験計画届を提出し、多施設共同の第Ⅲ相試験を開始しました。TKI治療期間が3年以上の慢性期CML患者60名を対象とし、TKI単独投与群よりも治験薬RS5614の併用群が2年間以上のDMR維持率を有意に上昇させることを検証します。
現在、がんの治療には、①手術療法、➁放射線療法、➂化学療法(抗がん剤)、④免疫療法があり、4大治療法と呼ばれています。このうち免疫療法は体に備わっている免疫本来の力を利用してがんを攻撃する治療法です。様々な免疫療法が提案されましたが、効果が証明された免疫療法の中でも免疫のブレーキを阻害する免疫チェックポイント阻害薬が主なものです。過剰な免疫反応は有害ですので、体内にはそれを抑える機構が備わっています。そのようなブレーキ機能を担う分子は免疫チェックポイント分子と呼ばれています。実は、がんはこの免疫チェックポイント分子を悪用することで自分自身に対する免疫が働かないようにしています。
免疫チェックポイント阻害薬は、免疫チェックポイント分子を阻害することで、このブレーキを解除し、がんに対する免疫応答を活性化します。当社は、PAI-1が免疫チェックポイント分子を介してがん免疫を阻害することを見出しました。動物モデルでの試験で、RS5614を投与した動物で悪性黒色腫(メラノーマ)や大腸がんなどのがんが退縮すること、さらに免疫チェックポイント阻害抗体と併用することで相乗的に強くがん免疫が増強されることが分かりました。
PAI-1阻害薬RS5614が有する免疫チェックポイント阻害作用は悪性黒色腫(メラノーマ)の第Ⅱ相試験で確認されました。
(悪性黒色腫とは)
悪性黒色腫は皮膚がんの一種で、皮膚の色と関係するメラニン色素を産生するメラノサイトという皮膚の細胞が悪性化してできる腫瘍です。皮膚がんの中でも転移率が高くきわめて悪性度が高いとされています。悪性黒色腫患者は本邦では10万人に1.5~2人と少ないですが、米国では21.0人と日本人の数十倍です。悪性黒色腫は極めて悪性度の高いがんです(5年生存率は、がんの大きさが4 mmを超えると50%程度、所属リンパ節転移がある場合は40%程度、遠隔転移がある場合は数%)。さらに、本邦における悪性黒色腫の進行の程度は米国と比べて3倍程度高いことが報告されています。これは、本邦の悪性黒色腫は、肢端黒子型というタイプの悪性黒色腫が多く、欧米とは異なっているために治療薬が奏効しづらいと考えられます。
悪性黒色腫の治療は、まず外科的に手術で切除されます。ただし、発見時既にがんが進行している場合も多く、根治切除不能の症例には、薬物療法(医薬品)が必要になります。悪性黒色腫には放射線療法はあまり有効ではありません。ニボルマブなど免疫チェックポイント分子を標的とする抗体医薬(免疫チェックポイント阻害薬)の登場により、薬物療法は画期的に進歩しました。ただし、本邦における悪性黒色腫に対するニボルマブの奏効率は22.2 %です。さらに、ニボルマブが無効な患者に対して、ニボルマブとイピリムマブとの併用療法が認められていますが、その奏効率は海外21%、国内13.5%です。なお、ニボルマブ・イピリムマブ併用療法は、半数を超える患者に重篤な副作用が出現し、単剤投与に比べて投与中止となる重度の免疫関連副作用の発現頻度は4倍と高く、数か月に及ぶ入院やがんに対する治療の中断が必要となることが問題となっています。また、高額医療費の課題もあり、抗体とモダリティが異なる経口投与可能で、副作用が少なく、奏効率を上昇させる併用薬が待ち望まれています。
外科的に根治切除が難しい悪性黒色腫を対象に、PAI-1阻害薬RS5614と免疫チェックポイント阻害薬ニボルマブとの併用の有効性及び安全性を検討する第Ⅱ相医師主導治験を、東北大学病院など6医療機関と共同で実施した結果、ニボルマブとRS5614の併用は、既存治療であるニボルマブとイピリムマブ併用での報告より、同等以上の有効性を示しました(ニボルマブ+RS5614の奏効率24.1%、ニボルマブ+イピリムマブの奏効率13.5%)。また、ニボルマブとイピリムマブ併用は重篤な免疫関連副作用などによりその安全性が懸念されていますが、ニボルマブとRS5614の併用では問題となる副作用は認められませんでした。
第Ⅱ相医師主導治験の結果
有効性
安全性
安全性解析対象例34例のうち、治療開始8週時点までに生じた重篤な有害事象は9例11件で、治験薬との因果関係の可能性があるのは肝機能障害2件(5.9%)
現在、悪性黒色腫においては、ニボルマブ無効例に対してイピリムマブとの併用の保険適応が認められていますが、ニボルマブ・イピリムマブ併用での重篤な副作用が問題になっています。日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)は、非小細胞肺がんを対象としたニボルマブ+イピリムマブ併用療法の有効性を比較する第Ⅲ相試験(JCOG2007試験)を全国59施設で2021年4月より実施していましたが、ニボルマブ・イピリムマブ併用群で予想を超える約7.4%(148人のうち11人)の治療関連死亡が認められたため、2023年3月30日に本試験を中止しました。そのように、ニボルマブ・イピリムマブ併用は、がんの種類を問わず、問題となっています。
悪性黒色腫を対象とした第Ⅱ相試験において、ニボルマブ無効例に対して、RS5614・ニボルマブ併用は、ニボルマブ・イピリムマブ併用と同等かそれ以上の有効性を示し、ニボルマブ・RS5614併用はニボルマブ・イピリムマブ併用より高い安全性を示しました。以上から、免疫チェックポイント阻害薬単剤療法が無効の根治切除不能悪性黒色腫に対する新しい治療法開発は喫緊の課題であり、ニボルマブとRS5614の併用は、有効性も安全性も高い薬物療法となることが期待されます。
動物モデルを用いた非臨床試験で、PAI-1阻害薬RS5614の経口投与で悪性黒色腫に加えて、大腸がん、肺がんなどのがんが退縮すること、さらに免疫チェックポイント阻害抗体との併用でこの作用は著しく増強されることが分かっています。そこで、非小細胞肺がんに対する第Ⅱ相医師主導治験と皮膚血管肉腫に対する第Ⅱ相医師主導治験を、広島大学病院など医療機関と共同で実施しました。その結果、血管肉腫および非小細胞肺がんで有効な結果を確認することができました。現在、非小細胞肺がんは後期第Ⅱ相試験を実施しており、血管肉腫は第Ⅲ相試験に向けた準備を進めています。
以前より、PAI-1の発現が高いがんは悪性度が高く、予後不良であることが多くのがんで報告されており、「PAI-1パラドックス」と言われてきました。当社は、国内外の多くの大学との共同研究から、がん細胞がPAI-1を産生し、PD-L1などの免疫チェックポイント分子の発現を増強することで、がん細胞が免疫系からの攻撃を回避している知見を見出し、動物モデルを用いた非臨床試験で、PAI-1阻害薬RS5614の経口投与で悪性黒色腫、大腸がん、肺がんなどを退縮させることを証明してきました。今回の治験で、外科的に根治切除が難しく、またニボルマブが無効な悪性黒色腫患者29例に対して、RS5614を8週間併用することにより、7例において奏効を確認することができました。既に、血液がんである慢性骨髄性白血病の薬物療法としてもRS5614が有効であることを第Ⅱ相試験(前期、後期)で実証しており、現在第Ⅲ相試験を実施中です。以上、「PAI-1パラドックス」が実際にがん治療でも重要であり、一部のがん種ではPAI-1が治療の標的でなること、さらにPAI-1阻害薬が薬物療法として有効であることをヒトで確認できました。
第Ⅱ相試験の成績に基づき、東北大学、札幌医科大学、熊本大学など18の大学等の医療機関と共同で、根治切除不能悪性黒色(メラノーマ)患者124例を対象に、ニボルマブとのRS5614の併用の有効性及び安全性を検証する第Ⅲ相ランダム化プラセボ対象二重盲検医師主導治験を実施中です。本試験は国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所の令和7年度「希少疾病用医薬品等試験研究助成事業」に採択されました。2025年1月に東北大学病院における治験審査委員会(IRB)にて承認され、2025年2月には第Ⅲ相試験が開始され初回投与を実施しました。本試験は、根治切除不能悪性黒色(メラノーマ)124名を対象とし、ニボルマブ単剤投与群よりも治験薬RS5614の併用群が生存期間を有意に延長させることを検証します。
第Ⅱ相試験で有効性を確認することができました。今後、規制当局との協議を行い、現在実施している第Ⅲ相試験の結果によって承認申請など今後のロードマップを明らかにしてまいります。また、当社は医薬品製造販売業許可を持っていませんので、他の企業との協業により商業化の道筋も明確にしたいと考えています。
これまでの免疫チェックポイント阻害薬はすべて抗体医薬で入院して注射で投与する必要のある医薬品で高額です。また、既存の抗体医薬は様々な副作用があることも分かっています。 RS5614は、安全性が高く、ご自宅で服用していただける飲み薬になると考えます。また、抗体と違って化学合成で製造されますのでその価格は抗体よりも低くなると考えられます。
非小細胞肺がんに対する標準治療はプラチナ製剤併用化学療法と抗PD-1/PD-L1抗体を用いた免疫療法ですが、治癒に至る症例は少ないです。無効の場合には、2次治療としてドセタキセル等の化学療法が実施されますが、生存期間は3か月と短く、3次治療が必要となり、有効な3次治療は少なく新たな治療薬が待ち望まれています。当社は、PAI-1が肺がんの進展や増殖に関与していることを共同研究で見出し、抗PD-1抗体に耐性となったがん細胞はPAI-1の発現が極めて高いことを確認しました。実際に、肺がんモデルマウスを用いた非臨床試験で抗PD-1抗体とPAI-1阻害薬の併用投与が抗PD-1抗体単剤投与よりも高い抗がん作用を示すことを確認しました。これらの知見から複数の抗がん剤治療歴を有する切除不能な進行・再発非小細胞肺がん患者を対象として、ニボルマブとRS5614の併用療法による第Ⅱ相試験を実施しました。その結果、3次治療患者では奏効率18.2%、6か月無増悪生存割合27.5%を示し、ニボルマブ単剤と比較して高い抗腫瘍効果が確認されるとともに、新たな安全性上の懸念も認められませんでした。これらの結果を踏まえ、現在は局所進行非小細胞肺がんを対象に、初回標準治療である化学放射線療法およびデュルバルマブによる地固め療法にRS5614を併用する医師主導第Ⅱ相試験を実施しています。
皮膚血管肉腫は稀な軟部腫瘍(日本における年間発症数は300名程度)で、アポトーシス*誘導剤のタキサン系抗がん剤が第1選択薬となっています。しかし、タキサン系抗がん剤を使用した90例の皮膚血管肉腫の予後を検討した結果、全生存率は649日と治療効果は限定的であり、新たな治療薬の研究開発が急務となっています。PAI-1は主として血管内皮で産生されます。当社は、皮膚血管肉腫の検体解析で、PAI-1高発現が疾患の予後と強く相関している知見を見いだしました。PAI-1を高発現するがん細胞ではアポトーシス耐性になっている知見からも、PAI-1阻害薬を併用することで、タキサン系抗がん剤の血管肉腫治療効果を増強できる可能性が強く示唆されます。そこで、タキサン系抗がん剤パクリタキセルが無効となった皮膚血管肉腫患者を対象に、第Ⅱ相試験(医師主導治験)を東北大学などで実施しました。その結果、無増悪生存期間(PFS)は4.0か月、全生存期間(OS)は20.8か月と既存治療を上回る成績が得られ、15例中13例(86.7%)で病勢の安定が確認されるとともに、重篤な副作用や未知の副作用の発現は認められませんでした。現在、本試験結果を踏まえ、次相試験および実用化に向けた準備を進めています。
*アポトーシス:細胞が傷ついて死亡するネクローシス(あるいは壊死)とは違って、細胞自身が持つ死のプログラムが活性化されて細胞死に至る現象
当社は米国ノースウェスタン大学と共同で「PAI-1と老化」に関して研究をしてきました。
生物の細胞は細胞老化と呼ばれる現象のために、無制限に増殖することはできません。この現象には、遺伝子のテロメア長の短縮、更にはp53などの細胞老化因子が関与しています。老化した細胞は、p53に加えて、PAI-1の発現が極めて高いことが分かっています。実際に、p53やPAI-1を抑制することで細胞老化の現象は阻害できることが明らかになりました。細胞のみならず、老化した組織や個体(klothoマウス、早老症として有名なウェルナー症候群のヒト)でも、PAI-1の発現が高いことが報告されました。老化モデルとして有名なklothoマウスでは、PAI-1の発現や活性を遺伝子あるいはタンパクレベルで阻害することにより、老化の主症状を全て改善できることを明らかにしました。
さらに、米中西部に暮らすキリスト教の一派、アーミッシュコミュニティーの人々を調査し、PAI-1遺伝子を持たない人は、持っている人に比べて10年長生きすることを見出しました。また、欠損する人々は糖尿病など病気にもかかりにくいことも分かりました。
これらの事実は、2017年11月にニューヨーク・タイムズ始め、多くの新聞で報道されました。研究代表者のノースウエスタン大学の主任教授は「彼らはより長く生きているだけではない。より健康的に生きている。長生きの理想型だ。」と述べました。このヒトでの疫学調査は、細胞やマウスでの実験結果と一致しています。加齢と共に、がん、血管(動脈硬化)、肺(肺気腫、慢性閉塞性肺疾患)、代謝(糖尿病、肥満)、腎臓(慢性腎臓病)、骨・関節(骨粗鬆症、変形性関節症)、脳(脳血管障害、アルツハイマー病・認知症)などの疾患が発症します。興味深いことに、これら疾患の組織では、PAI-1の発現は極めて高くなっています。しかも、これらの疾患の動物モデルにPAI-1阻害薬を投与することで、その病態は著明に改善されることが確認されました。
近年、老化した細胞が免疫のブレーキになるタンパク(免疫チェックポイント分子)を発現し、免疫からの攻撃を逃れていることが示されました。免疫チェックポイント分子を阻害する薬剤(免疫チェックポイント阻害薬)を加齢マウスや生活習慣病マウスに投与すると、免疫が活性化されて老化した細胞が除去され、臓器や組織の老化現象や生活習慣病が改善しました。当社は、PAI-1ががん細胞の免疫チェックポイント分子の発現に関与し、がん細胞の増殖を促進すること、そしてPAI-1阻害薬が免疫チェックポイント阻害作用を有することを見出しました。このように、PAI-1はがんと老化を促進し、当社のPAI-1阻害薬はがんとその他の老化関連疾患に有効であると期待されます。
以上、PAI-1と老化に関しては興味深い知見が明らかになりつつあります。さらに、当社は健康寿命の延伸を目指す国際コンペティション「XPRIZE Healthspan」のセミファイナリスト(TOP40)としてRS5614のセミファイナル臨床試験を実施しました。その結果、4か月間の投与により、生物学的年齢(エピゲノム年齢)が平均2~3歳若返ることが示されるとともに、免疫機能、骨・筋肉機能、代謝機能、認知機能に関連するバイオマーカーの改善、造血幹細胞機能の回復及び酸化ストレスの軽減など、全身的な抗加齢作用を示唆する結果が得られ、安全性についても概ね良好であることが確認されました。今後も健康寿命延伸を目指した研究開発を推進してまいります。
当社は、医療の課題を解決するため様々なモダリティを活用した医療ソリューションを研究開発しており、医師主導治験を活用した臨床試験を複数のパイプラインで実施しています。核酸医薬品における共同研究先であるルクサナバイオテクは、国立大学法人大阪大学大学院薬学研究科の小比賀聡教授が開発した人工修飾核酸を活用した創薬基盤技術を活用して、高い有効性と安全性を有するバイオ医薬品(核酸医薬品)を 研究開発しています。そこで、ルクサナバイオテクの有する人工修飾核酸技術と当社の有する医師主導 治験における実績と経験を活かして、新規核酸医薬の研究、臨床開発及び事業化を共同で実施することとしました。
なお、本研究は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の令和6年度「スマートバイオ創薬等研究支援事業(代表研究機関は国立大学法人大阪大学で、当社は分担研究機関)」に採択されています。
加齢に伴い口腔機能が低下する状態(オーラルフレイルといいます)を放置すると摂食障害や構音(発話)障害等多くの身体的、社会的障害、さらには全身性の筋肉虚弱(フレイル)につながるため、早期の診断と適切な処置が重要です。高齢社会において口腔機能低下のひとつである摂食嚥下障害は増加し、死因とされる肺炎の約7割が誤嚥によるとの報告もあります。誤嚥性肺炎の予防には嚥下機能低下の早期発見とリハビリテーション等の治療介入が重要ですが、現在では、嚥下内視鏡検査、嚥下透視検査方法等患者負担の大きい嚥下評価法しかありません。
嚥下と会話で使用する器官は舌や口腔・咽頭等共通部分が多く、会話から嚥下機能を評価できる可能性に着目し、嚥下機能障害を会話時の音声データから評価可能なAIを開発しています。東北大学の複数の診療科 (耳鼻咽喉科、歯科、医工学部リハビリテーション科)及び日本電気株式会社(NEC)と共同で、東北大学病院嚥下治療センターに受診する患者の話す音の全周波数を時系列データの分析に特化したAIエンジン(時系列モデルフリー分析)で解析することで、健常者の音声のベースライン(性差、年齢差、個人差等)を確認し、健常者の発音と患者の発音の違いを検出し、嚥下機能の低下を診断するAIが開発できています。
今後、嚥下機能低下を有する高齢者データで学習させることで、実用化に向け開発を進めます。本プログラム医療機器が実用化されれば、誤嚥性肺炎等を生じる可能性のある嚥下機能低下患者を簡便かつ早期に診断することができると期待されます。2023年3月に東北大学と共同で知的財産権を出願しました。
重点領域の一つである女性の疾患に関する取組みとして、乳がんの病理画像から病変等を検出するAIを東北大学と共同で開発しています。病理画像を用いた検証では、検出モデルを3クラス(良性、非浸潤がん、浸潤がん)または2クラス(良性、悪性)で分類し、それぞれ88.3%と90.5%での診断精度を達成しました。
さらに、術中迅速診断時の凍結病理切片を用いた乳がん検出AIを開発し、良性・悪性の分類で92.3%、良性・悪性に加えて非浸潤がん・浸潤がんを分類した場合で89.2%の診断精度を達成しました。これらの成果は学術論文として公表されています。
また、老化関連疾患に関する取組みとして、心臓植込み型デバイスの情報を用いて、不整脈・心不全の発生予測をするAIを東北大学と共同で開発しています。
さらに、2022年9月に、株式会社ハイレックスコーポレーション及び株式会社ハイレックスメディカルとの共同研究契約を締結し、株式会社ハイレックスメディカル及び東北大学と共同で補助人工心臓の血栓発生を予測するAIの開発に取り組んでいます。
優れた技術があっても、医療現場の課題やニーズに合致していない、医療現場のスペックに不適切であるなどの理由から、医療応用(実用化)が難しい事例は多く、技術を有する多くの企業でもこの問題に直面しています。当社は、医療現場のニーズを出発点として問題の解決策を開発し、医療現場で最終製品をイメージして最適化開発を行い、イノベーションを実現する「バイオデザイン」という考えに基づいて医療機器やプログラム医療機器の開発を心掛けています。
安定的な黒字化を達成できる時期を明言することは難しいですが、今後、公的研究助成金を積極的に活用すること、また、パイプラインの導出から得られる収入(契約一時金、開発段階に応じて支払われるマイルストーン収入、製品の売上に応じて支払われるロイヤリティ収入等)を通じて、長期的な黒字化を目指していきたいと考えています。
2026年3月期の通期業績は、事業収益が68百万円、営業損失が356百万円、経常損失が300百万円、当期純損失が301百万円となりました。事業収益は前期比で減収となりましたが、東レ・メディカル株式会社とのAI搭載型血液透析医療機器の開発に係るマイルストーン収入、ニプロ株式会社との慢性透析患者の除水量最適値を予測するAIアルゴリズムを活用した製品に係る契約一時金及び共同開発契約延長に伴う契約一時金、AMED事業に係る受託研究収入を計上しました。
計画対比では、事業収益は60%となりましたが、主な要因は、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所からの助成金収入の表示区分変更(営業外収益への変更)や、エイリオン社の第Ⅱ相試験開始遅延等によるものです。一方で、XPRIZE HealthspanのTOP40(セミファイナリスト)入賞に伴うコンテスト賞金収入や助成金収入を営業外収益として計上しました。
費用面では、計画対比で悪性黒色腫に係る事業原価の減少や、CML・膵臓がん等に係る研究開発費の効率化により、事業費用は421百万円(計画比94%)、研究開発費は201百万円(計画比80%)となりました。限られた経営資源を効率的に活用しながら、CML、悪性黒色腫、非小細胞肺がん、皮膚血管肉腫、膵臓がん、抗加齢・長寿関連研究など、複数のパイプライン開発を継続的に推進しています。
この結果、営業損失は356百万円となり、計画397百万円の損失に対して損失額が縮小しました。さらに、XPRIZE Healthspanのコンテスト賞金収入36百万円、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所及び自治体からの助成金収入27百万円などを計上したことにより、経常損失は300百万円、当期純損失は301百万円となり、計画対比では利益ベースで収益性が大幅に改善しました。
また、財務面では、第三者割当による資金調達により、現金及び現金同等物の期末残高は3,402百万円、純資産は3,322百万円、自己資本比率は94.5%となりました。これにより、がん分野における実用化の加速、抗加齢・長寿分野での国際共同研究及び医療機器・AIプログラム医療機器の事業化に向けた研究開発を進めるための財務基盤を強化しました。

第1四半期:8月中旬頃、第2四半期:11月中旬頃、第3四半期:2月中旬頃、決算発表:5月中旬頃 に行っています。
下記ページをご覧ください。
事業年度は4月1日~翌年3月31日までであり、決算期は毎年3月です。
下記ページをご覧ください。
下記ページから受付しています。
なお、多くいただきましたご質問には、当社ホームページ上のFAQなどで公開させていただきます。