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安全安心な血液透析を支援する人工知能(AI)に関する総説掲載のお知らせ

当社は東北大学やNECなどと共同で、血液透析治療を支援する人工知能(AI)を搭載したプログラム医療機器を開発しています。その臨床的な有用性を評価する臨床性能試験1)を、聖路加国際病院など国内8施設で実施した結果、透析専門医と同等の予測精度を有すること(非劣性)が証明されました(2025年10月20日適時開示済)。このプログラム医療機器の総説が『臨牀透析』2026年2月号に掲載されましたので、お知らせいたします。

慢性血液透析患者では腎機能が低下して、水分や老廃物を体内から除去できません。血液透析治療において、水分の除去(除水)の管理は最も重要な目的の一つです。除水が不足すると、患者の心肺機能に障害を与えるリスクがあります。一方で、無理な除水を行うと透析中の低血圧を引き起こし、気分不良や意識消失といった重大な有害事象を生じる危険性があります。そのため、適正な除水量の設定には専門性が求められ、医師が最も苦心する点となっています。現在、透析施設では専門医の数が十分ではなく、地方や夜間の診療においては非専門医や経験豊富な看護師、臨床工学技士が除水量設定の補助を行っているのが現状です。このような人的資源の不足という課題を解決し、どこでも安全安心な透析治療を実現するため、熟練した透析専門医の「経験知(暗黙知)」を模倣できるAIを活用したプログラム医療機器の開発が急務となっていました。

本プログラム医療機器には、東北大学とNEC北米研究所が共同で開発した独自のAIエンジン「DCCN(Dual-Channel Combiner Network)」が搭載されています。DCCNはディープラーニングをベースとしており、「週3回の透析情報」「月2回の血液検査結果」「患者プロファイル」など、サンプリングレート(取得間隔)が異なる時系列データをそのまま統合して、学習・予測できる画期的なAIです。透析専門医が行った約40万回にも及ぶ膨大な透析データをAIに学習させた結果、過去5回分の透析情報に加えて当日の透析前の情報、直近の血液検査結果、患者プロファイルから適正な除水量を判断します。

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の支援のもと、聖路加国際病院や川島病院など全国8つの医療機関において、本プログラム医療機器の臨床性能試験を多施設共同で実施しました。  本試験では、透析専門医が実施した108例の臨床データに対し、専門医が処方した目標除水量とAIの予測除水量を比較しました。医薬品医療機器総合機構(PMDA)との相談で合意した主要評価項目において、AIの予測と専門医の設定との誤差が許容範囲内にある「正解率」の目標を80%に設定した結果、AIの正解率(平均)は「90.0%」に達し、目標を大きく上回る極めて良好な結果を得ました。平均除水量2,353mLに対し、AIと専門医の予測の平均絶対誤差(MAE)2)はわずか119.2mL(コップ1杯程度の誤差)であり、平均誤差率(MAPE)3)も5.2%にとどまりました。これらの結果から、本AIプログラム医療機器が、除水量設定において透析専門医に対して非劣性(同等)であることが証明されました。また、地理的に異なる複数の施設においても一貫して高い精度が示され、高い汎用性も確認されています。

このプログラム医療機器の実用化により、少ない人的資源で透析診療に携わる医療従事者の負担を大幅に軽減し、全国どこでも専門医レベルの安全で質の高い透析治療を提供できることが期待されます。さらに我々は、次世代の技術として、個々の患者のデータを継続的に学習し、より患者個人の特性に最適化された予測を可能にする「P-DCCN(パーソナライズドDCCN)」の開発にも取り組んでいます。将来的には、生涯にわたる透析治療において、個々の患者に最適な除水計画を提案する「個別化医療」の実現に貢献したいと考えます。

『臨牀透析』2026年2月号では、このプログラム医療機器の総説が記載されました。

用語説明

1)  臨床性能試験
開発中のプログラム医療機器(SaMD:Software as a medical device)を医療現場で使用できるようにするためには、実際にヒトの臨床データを用いて、臨床現場でそのプログラム医療機器が期待した性能を発揮するかを確かめる必要があります。臨床性能試験は、その検証のために実施する臨床研究です。臨床性能試験で確認できた性能に基づき、厚生労働省へプログラム医療機器として製造・販売するための申請(薬事申請)を行います。医薬品における検証試験(第Ⅲ相試験)と同様な性格を有する臨床研究です。

2)  MAE(平均絶対誤差)
予測モデルの精度を評価するための指標の一つです。具体的には、予測値と実際の値との差の絶対値の平均を示します。MAEは以下のように計算されます。

*値が小さいほど高精度な予測ができていることを示している

3)  MAPE(平均絶対誤差率)
予測モデルの精度を評価するための指標の一つです。具体的には、実際の値に対する誤差の「割合(%)」を平均したものです。MAPEは以下のように計算されます。

*値が小さいほど高精度な予測ができていることを示している