開発状況

膵臓がん治療薬


膵がんは悪性腫瘍における疾患別死亡数の第3位ですが、早期発見が極めて困難な悪性疾患であり、診断時に切除可能な膵がんは15-20%に過ぎず、46.3%が遠隔転移陽性[i]と診断される予後不良のがんです。


膵がんで長期生存を得るには根治的切除が必須ですが、例え根治的切除が達成しても切除後の再発が極めて多い悪性腫瘍であり、その予後は18.8-31.3%と未だに不良です。
遠隔転移を有する膵がんや切除後再発膵がんに対する標準治療は化学療法ですが、有効な治療法が少なく、FOLFIRINOX療法[ii](奏効率、31.6%;全生存期間、11.1か月)やゲムシタビン及びナブパクリタキセル療法(GnP療法:奏効率、29%;全生存期間、8.5か月)にても5年生存率は全体で10%程度であり(遠隔臓器やリンパ節に転移した段階であるステージ4では1〜3%)、既存の標準治療を増強する治療薬が求められています。

PAI-1は、膵臓がんの予後不良因子の1つです。PAI-1阻害薬RS5614は、がん組織において、上皮間葉転換[iii]の抑制、Tリンパ球の活性化、腫瘍浸潤マクロファージ[iv](TAM)の減少、腫瘍内のTリンパ球数の増加、がん細胞上の免疫チェックポイント分子発現の低下、がん細胞の免疫チェックポイント分子阻害薬への耐性解除、腫瘍免疫微小環境の改善、腫瘍免疫の活性化など作用を有しています。
さらに、PAI-1阻害薬の薬理作用である抗血栓作用や抗線維化作用、さらにはがん関連線維芽細胞[v](CAF)の減少は、膵がんの腫瘍環境を考える上でも有用な薬理作用を有しています。


「遠隔転移を有する切除不能膵がん又は再発膵がんに対するゲムシタビン及びナブパクリタキセル療法とRS5614併用の安全性・有効性を検討する第Ⅱ相試験(非盲検)」を開始するため、東北大学との契約を締結しました。
2026年5月から東北大学病院など3医療機関と共同で、遠隔転移を有する切除不能膵がん又は再発膵がん患者50名を対象に第Ⅱ相試験を開始する予定です。
既に、2025年3月19日にPMDAとの対面助言を終了しており、臨床プロトコールも確定しています。今後、治験審査委員会(IRB)の承認、PMDAへの治験届提出を経て、医師主導治験を開始する予定です。

  


[i] 遠隔転移陽性:がんが原発部位である膵臓以外の臓器に広がっている状態を指します。

[ii] FOLFIRINOX療法:4種類の抗がん剤(フルオロウラシル、ロイコボリン、イリノテカン、オキサリプラチン)を組み合わせて行う化学療法で、主に膵臓がんの治療に用いられます。複数の薬剤を組み合わせることで、がんの増殖をより強く抑える効果が期待されます。

[iii] 上皮間葉転換(EMT):細胞と細胞が接着することによって組織を形成している上皮細胞が、可動性の高い間葉系の細胞に変化する現象です。組織の線維化、がんの浸潤、転移を促進する一つのきっかけとなります。

[iv] 腫瘍浸潤マクロファージ(TAM):腫瘍浸潤マクロファージは、がん組織に集積する免疫細胞の一種で、この細胞の浸潤度が高いことは、患者の予後不良と関連しています。具体的には、細胞増殖因子の産生とがん細胞の増殖、血管新生因子の放出と腫瘍への血液供給を増加、さらにがん細胞の周囲組織への浸潤や転移を促進します。

[v] がん関連線維芽細胞(CAF):がん間質(がん細胞を支える組織)に存在する線維芽細胞で、がん細胞の周囲に豊富な細胞外基質(コラーゲンなど)を沈着させ、物理的な障壁として機能します。これにより、抗がん剤や免疫細胞のがん組織への到達が妨げられ、治療効果を低下させます。また、がん関連線維芽細胞は腫瘍免疫微小環境を調節し、T細胞などの免疫細胞の機能を抑制することで、がん免疫の作用を減弱します。