開発状況

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に伴う肺傷害治療薬


2020年初頭からわずか数カ月ほどの間に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、医療面と社会面の両方で大きな問題となりました。感染者の多くは軽症でしたが、一部の高齢者や糖尿病、腎臓病患者は重症肺炎に至りました。
軽症患者は在宅療養で様子を見ていましたが、発症時は軽症でも急速に重症化する症例も多く、外来患者にも経口投与が可能である安全な肺炎の重症化を防ぐ治療薬の開発が喫緊の課題でした。

COVID-19による重症肺炎では炎症や線維化などの病変が急速に進行し、血管内皮障害や凝固亢進の特徴的な所見が認められることから、PAI-1阻害薬の有する抗血栓、線溶、抗線維化、抗炎症などの作用が有効と考えられました。
そこで、速やかに治験の準備に着手し(PMDA相談、治験薬製造、臨床プロトコール確定)、半年後の2020年秋にはCOVID-19肺炎に対するPAI-1阻害剤の安全性を評価するための前期第II相試験(非盲検)を実施し、2021年6月に治験総括報告書を纏めました。
PAI-1阻害薬RS5614を投与された肺炎の入院患者26名全員が副作用もなく無事退院されました(Scientific Reports 2024)。

2021年3月にAMED「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」に採択され、2021年4月のPMDA事前面談に基づき実施計画書を確定し、2021年6月から東北大学、京都大学、東京科学大学、東海大学等国内20の大学等の医療機関と共同で、COVID-19に伴う肺傷害患者(中等症、入院患者)を対象とするプラセボ対照二重盲検の後期第Ⅱ相試験を開始しました。
本治験は、COVID-19の流行時期やウイルス株変異の影響を受け、治験の対象となる肺炎入院患者数が減少したため、最終的に入院患者75例(RS5614群39例、プラセボ群36例)を対象に試験を終了し、治験総括報告書を纏めました(2023年4月17日適時開示)。
有効性の主要評価項目である「酸素化悪化指標スケール[i]の総和」は、両群間で統計学的な有意差は認めませんでしたが、プラセボ群に対してRS5614群で悪化の抑制が見られ、特に中等症Ⅰ患者[ii]での有効性が示唆されました。
さらに、酸素治療が必要となる症例の割合も、入院後3~5日でRS5614群の方が少ないことから、早期治療でのRS5614の有効性が示唆されました。
また、RS5614群では、プラセボ群と異なり、肺炎画像所見の改善も認めました。副作用発現率はRS5614群とプラセボ群で同程度であり、COVID-19に伴う肺傷害患者に対するRS5614の安全性も確認できました。

RS5614は抗ウイルス薬とは作用機序が全く異なり、内服が可能な医薬品です。
現在、COVID-19は落ち着いていますが、将来の新たなウイルスの発生に際して速やかに臨床試験が実施できるよう準備をしています。
前期及び後期第Ⅱ相医師主導治験の結果は、2024年1月に科学誌『Scientific Reports』に掲載されました。

 


[i] 酸素化悪化指標スケール:被験者の酸素化の状況を、酸素なし(0点)~人工呼吸器エクモ装着(5点)までの点(例えば、酸素投与2L以上、5L未満は2点)を毎日付けて14日間の合計で比較

[ii] 中等症Ⅰ患者:定義は「新型コロナウイルス感染症COVID-19診療の手引き、第10.0版」に記載

・中等症Ⅰ:新型コロナウイルス感染症で、血中の酸素の値が93%から96%の間で、呼吸困難や肺炎初見が認められるが、呼吸不全はなく、酸素投与治療は行われていないステージ

・中等症Ⅱ:血中の酸素の値が93%以下で、呼吸不全があり、酸素投与治療が必要なステージ

・重症:集中治療や人工呼吸器が必要なステージ