当社PAI-1阻害薬RS5614が動脈硬化など血管の老化を回復させる可能性があることをノースウエスタン大学(米国)および東北大学大学院医学系研究科(日本)との共同研究で明らかにし、2025年9月30日にThe Journal of Clinical Investigationに論文が掲載されましたのでお知らせいたします。
https://www.jci.org/articles/view/196714
PAI-1の血中濃度は加齢と伴い増大し、細胞老化随伴分泌現象(SASP)因子1)の一つと考えらえられています。高濃度のPAI-1は加齢に関連した様々な疾患、がん、動脈硬化、肺気腫、慢性閉塞性肺疾患、糖尿病、慢性腎臓病、骨粗鬆症、サルコペニア2)、脳血管障害、アルツハイマー病などに関与していること、そしてこれら動物モデルにPAI-1阻害薬を投与することにより病態が改善されることも報告されています。本研究では、血管の老化に着目し、遺伝子改変マウス、及びマウスの血管老化モデルを用いて、心血管老化におけるPAI-1の関与を明らかにし、当社PAI-1阻害薬RS5614の血管の老化を回復させる作用を確認しています。
以前に、米国に生活するアーミッシュ3)の血液を検査し、PAI-1遺伝子を欠損している者が多数存在していることを確認し、これらのPAI-1遺伝子欠損者が同遺伝子保有者比べて10年程度寿命が長いことを報告しました(Science Advances, 2017)。この事実は2017年11月21日のニューヨークタイムズの記事(November 11, 2021)でも紹介されました。今回、アーミッシュのヒトと同じPAI-1遺伝子の異常を有する遺伝子改変マウスを作製し、長期間飼育し寿命を測定したところ、PAI-1遺伝子欠損マウスの寿命(平均寿命は879日)は、正常のマウス(平均寿命が730日)に比べて20%程度長いことが示されました。
正常のマウスおよびこの遺伝子改変マウスに、血管老化を促進する試薬(eNOS阻害薬4))を投与した場合の血管老化を、収縮期血圧(SBP: 末梢血管の硬化の指標)、脈波伝播速度(PWV; 動脈硬化の指標)、左室拡張能(E/e’: 心臓の柔軟性の指標)を指標として評価した結果、正常のマウスで見られた血管老化の誘発が、PAI-1産生の低い遺伝子改変マウスでは減弱されることを明らかにしました。逆に、PAI-1を高発現する遺伝子改変マウスでは、正常マウスに比べて、12週齢以上で加齢に伴う血管老化が有意に促進しました。
本研究ではさらに、eNOS阻害薬を用いた血管老化モデルを用いて当社PAI-1阻害薬RS5614の効果を解析しました。正常マウスに血管老化を促進する試薬(eNOS阻害薬)を4週間投与して血管老化症状 (SBPおよび PWVの増加)を誘導したのちに、当社PAI-1阻害薬RS5614をeNOS阻害薬とともにさらに6週間投与しました。その結果、RS5614は、eNOS阻害薬による血管老化の進展を抑制するだけでなく、RS5614投与前の血管老化症状よりもさらに症状を改善することが明らかになりました。この結果は、RS5614が一旦生じた血管老化を回復させる作用があることを示唆する新たな知見です。
「人は血管とともに老いる」といわれるように、加齢とともに血管が老化し、この血管の老化が健康寿命に大きく影響すると考えられます。現代の様々な生活習慣病(高血圧、糖尿病、慢性腎臓病、高脂血症)が血管老化を促進しています。当社PAI-1阻害薬RS5614が血管の老化を防止するだけでなく、回復させる作用もあることが示唆されたことはPAI-1阻害薬の抗加齢作用として極めて重要な知見です。
1)細胞老化随伴分泌現象(SASP)因子
細胞老化を起こした細胞が大量に分泌する炎症性サイトカイン、増殖因子などを総称して、細胞老化随伴分泌現象(SASP)因子といいます。PAI-1はその一つと考えられています。これらの因子は組織修復にかかわる一方で,炎症反応を促進するため慢性炎症の原因にもなると考えられています。
2)サルコペニア
加齢に伴い、筋肉の量が減少し、筋力が低下する状態のことです。
3)アーミッシュ
アメリカのキリスト教者共同体の一つです。疫学研究から、この人たちにはPAI-1遺伝子欠損者が多いことが明らかにされています。
4)eNOS阻害薬
eNOSは血管内皮細胞に存在し、血管の緊張や血小板凝集を調節する一酸化窒素(NO)を産生する酵素です。健康な心血管系にはeNOSは不可欠で、その阻害薬は血管老化を誘導します。本論文ではeNOS阻害薬としてL-NAMEという化合物を用いています。