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術中迅速診断時の組織病理学的画像における乳がん検出AIに関する論文の正式掲載のお知らせ

当社は、少子高齢化をはじめとする医学的・社会的に重要な課題の解決に向けた研究開発に取り組んでおり、女性・小児に関わる疾患領域も研究対象としています。
この一環として、国立大学法人東北大学大学院医学系研究科病理検査学分野の鈴木 貴教授、田中美桜助教およびNECソリューションイノベータ株式会社(NES)との共同研究により、乳がんの凍結病理切片1)を用いた術中迅速診断2)を支援する人工知能(AI)の開発に取り組んできました。
本研究成果をまとめた論文「Artificial Intelligence for Breast Carcinoma Detection in Histopathological Images Based on Single Shot MultiBox Detector in Intraoperative Rapid Diagnosis」については、2025年12月4日のJ-STAGEでの先行公開を受け、2025年12月5日にお知らせしていました。
このたび、同論文のジャーナル掲載版が、The Tohoku Journal of Experimental Medicine, Volume 269, Issue 4(2026年8月発行)に正式掲載されましたので、お知らせいたします。

Tohoku J. Exp. Med., 2026, 269(4), 507–516.
DOI:https://doi.org/10.1620/tjem.2025.J120
2025年12月5日付ニュース:https://www.renascience.co.jp/breast-cancer-ai/
なお、正式掲載版では書誌情報や表記が整備されていますが、先行公開版から研究内容および主要な結果に変更はありません。

共同研究の背景
乳がんは、日本人女性のがんの中で最も患者数が多く、生涯に乳がんを患う日本人女性は11人に1人といわれています。しこりや画像診断などにより乳がんが疑われた場合、最終的な診断は病理診断によって行われます。乳がんに対して迅速かつ適切な治療を行うためには、病理医による組織学的分類に基づく正確な診断が不可欠です。
一方、病理医の数には限りがあり、診断を支援するAI技術への期待が高まっています。
当社は東北大学らと共同で、病理画像から乳がんの病変部を検出するAIの開発を進めています。2022年10月7日には、AIを用いた物体検出手法の一つであるシングルショットマルチボックス検出器(SSD)3)を用いた、病理組織学的顕微鏡写真4)における乳がん検出モデルの研究成果が、科学誌 The Journal of Pathology Informatics に掲載されたことをお知らせしました。
この研究では、乳がんを「良性、非浸潤がん5)、浸潤がん6)」の3クラス、または「良性、悪性」の2クラスに分類したところ、それぞれ88.3%および90.5%の精度で診断が可能であることが示されました。
今回の研究では、この技術を乳がんの術中迅速病理診断に応用しました。
術中迅速診断は、乳がん手術において切除範囲などを判断するための重要な病理診断です。一方で、限られた時間と人員の中で対応する必要があり、乳がんの病理診断に高い専門性を有する病理医が求められます。さらに、標本を受領してから10~20分以内に診断を行う必要があることに加え、術中に作製される凍結切片は、通常の病理標本と比較して標本の品質が低下する傾向があります。
こうした課題を踏まえ、本研究では、術中迅速診断を支援するAIの開発に取り組みました。

研究成果
943枚の乳がん術中凍結切片の顕微鏡画像を学習データとしてSSDモデルに学習させた後、65枚の術中凍結切片画像を用いて乳がんの診断精度を評価しました。
その結果、以下の成績が得られました。
• 乳がんの分類:良性と悪性を識別するとともに、悪性については非浸潤がんと浸潤がんに分類
• 診断精度:良性/悪性の分類:正解率92.3%
良性/悪性の分類に加えて、非浸潤がん/浸潤がんまで分類:正解率89.2%(クラスごとに検出の信頼度閾値を最適化した場合)
• 平均検出時間:1画像あたり0.875秒
これらの結果から、本AIが乳がんの術中迅速診断を支援する技術となる可能性が示されました。

今後の展望
本AIを用いた診断技術は、乳がんの術中迅速診断を支援することで、病理医の負担軽減や、術中診断に基づく外科手術の意思決定を支援するツールとなる可能性があります。
一方、将来の臨床応用に向けては、学習データのさらなる拡充と検出条件の最適化が課題です。
術中迅速診断で得られる乳がん陽性例は限られており、特に浸潤がんの症例数は少なく、本研究で収集された浸潤がんの画像はデータセット全体で45枚でした。今後、学習データを拡充することにより、浸潤がんの検出性能が向上する可能性があります。
また、本研究のデータセットには乳管がんと小葉がんの両方が含まれています。今後、十分な画像数を確保し、それぞれを区別して学習させることで、さらに検出性能が向上する可能性についても考察されています。
AIによるがん細胞の見落としをできるだけ防ぐためには、検出の閾値を下げて再現率を高めることが一つの方法です。一方、AIから提示される情報が過度に多くなると、病理医の判断を複雑にし、かえって負担を増加させる可能性があります。
そのため、がん細胞の見落としを最小限に抑えながら、病理医に提示する情報量を適切に調整するための条件設定が、今後の臨床応用に向けた重要な検討課題となります。
今後、本モデルが病理医の診断を支援し、その負担軽減とともに、術中診断におけるがん細胞の見落としリスク低減に寄与する技術へと発展することが期待されます。

1)凍結病理切片
手術中に乳がんなどの腫瘍から採取した組織を急速に凍結して薄く切り、顕微鏡で観察するための標本です。手術中に腫瘍の切除範囲が十分であるか、リンパ節への転移があるかなどを短時間で確認し、必要に応じて追加切除などの手術方針を決定するために用いられます。

2)術中迅速診断
手術中に摘出した組織から凍結切片を作製し、短時間で顕微鏡観察を行って、がんの有無などを診断する方法です。

3)シングルショットマルチボックス検出器(SSD:Single Shot MultiBox Detector)
画像中の対象物の位置と種類を検出するAI技術の一つです。本研究では、術中凍結切片の顕微鏡画像から乳がんの病変部を検出し、分類するために使用しています。

4)病理組織学的顕微鏡写真
手術などで摘出した乳がん組織やリンパ節の一部を薄く切り、染色した上で顕微鏡撮影した画像です。がん細胞の有無や形態、増殖の状態、周囲組織への広がりなどを確認することができ、治療方針を決定する上で重要な情報となります。

5)非浸潤がん
がん細胞が基底膜を越えて周囲の間質に浸潤していない状態のがんです。周囲組織への転移リスクは低いものの、術中診断では病変の範囲や境界を確認することが重要です。

6)浸潤がん
がん細胞が基底膜を越えて周囲の間質に浸潤している状態のがんです。血管やリンパ管への浸潤や転移の可能性があり、手術方法や切除範囲を判断する上で重要となります。