米国アイカーン医科大学マウントサイナイ校(Icahn School of Medicine at Mount Sinai)の研究グループによる論文「A serpin–myeloid axis in pancreatic cancer heterogeneity and immune evasion」が、国際学術誌Nature(doi: 10.1038/s41586-026-11002-8)に掲載されたことをお知らせします。
本論文は当社の研究成果ではありませんが、当社がPAI-1阻害薬RS5614の開発対象として膵がんを選定してきた科学的根拠を、独立した外部研究グループの知見によって裏付けるものです。
論文の概要
膵管腺がん(PDAC)は5年生存率が13%程度とされる難治性のがんであり、免疫チェックポイント阻害薬(ICB)に対する反応性が乏しいことが課題とされています。研究グループは、独自の空間機能ゲノミクス解析技術「Perturb-map」を用いてマウスの膵がんモデルを網羅的に解析し、腫瘍の微小環境と免疫回避を制御する遺伝子を探索しました。
その結果、PAI-1(プラスミノーゲン・アクチベーター・インヒビター1)をコードするSERPINE1遺伝子と、PAI-2をコードするSERPINB2遺伝子が、腫瘍微小環境の形成と免疫回避を制御する中心的な因子として同定されました。主な知見は以下のとおりです。
当社パイプラインとの関連
当社は、PAI-1阻害薬RS5614について、遠隔転移・切除不能再発膵がんを対象として、ゲムシタビン+nab-パクリタキセル(GnP)療法にRS5614を上乗せする医師主導治験(東北大学病院総合外科 海野倫明教授)を進めています。
今回Nature誌に掲載された論文は、当社のRS5614そのものを用いた検証ではなく、遺伝子欠損マウスモデルおよび既知の低分子PAI-1阻害薬PAI-039を用いた基礎・前臨床研究であり、RS5614のヒトにおける有効性を直接示すものではありません。その上で、PAI-1(SERPINE1)が膵がんの腫瘍微小環境形成と免疫回避において中心的な役割を果たすという知見が、当社の開発戦略とは独立した研究グループによって示されたことは、当社がPAI-1を膵がん治療の標的分子として選定してきた妥当性を支持するものと当社は考えています。また、本論文がPAI-1阻害と抗PD-1抗体との併用による相乗効果を示唆している点は、RS5614の今後の臨床開発における併用療法の検討にあたっても参考になる知見です。
一方で、本論文において薬理学的検証に用いられたPAI-039は、前述のとおりヒトを対象とした臨床試験段階で開発が中止された化合物です。当社のRS5614は、既にヒトへの投与実績を有し、膵がんを対象とした医師主導治験の段階まで進んでいる数少ないPAI-1阻害剤であり、本論文が示すPAI-1標的の意義を実際にヒトで検証しうる立場にあると当社は位置づけています。
留意事項
出典
Falcomatà, C. et al. A serpin–myeloid axis in pancreatic cancer heterogeneity and immune evasion. Nature (2026). doi: 10.1038/s41586-026-11002-8