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PAI-1阻害薬RS5614の非小細胞肺がんに対する作用機序(上皮間葉転換(EMT)抑制、薬剤耐性改善、腫瘍免疫微小環境(TIME)改善)解明に関する論文掲載のお知らせ

当社PAI-1阻害薬RS5614の免疫チェックポイント阻害薬抵抗性非小細胞肺がんに対する作用機序が、広島大学大学院医系科学研究科、及び東北大学大学院医学系研究科との共同研究で明らかになり、2025年11月6日Molecular Cancer Therapeuticsに掲載されましたので、お知らせいたします。

https://aacrjournals.org/mct/article/doi/10.1158/1535-7163.MCT-24-0890/767170/Plasminogen-Activator-Inhibitor-1-Mediates

がん関連死亡の主な原因である肺がんの85%を占める非小細胞肺がんに対する標準的な第一選択治療薬として、細胞傷害性化学療法とPD-L1(プログラム細胞死リガンド1)またはPD-1を標的とする免疫チェックポイント阻害剤(ICI)を用いた免疫療法が行われます。しかし、治癒する患者はごくわずかで、半数以上が治療開始から1年以内にがんが進行します。その理由の1つは、がん細胞が抗がん剤やICIに対する耐性を獲得することにあります。本論文では、プラスミノーゲンアクチベーターインヒビター(PAI)-1分子が、がん細胞のICIに対する耐性獲得に重要な役割を果たしていること、さらに、PAI-1阻害薬RS5614が耐性を改善し、ICIの有効性を増大し、腫瘍免疫の活性化と共に腫瘍退縮を促すことを明らかにしました。

非小細胞がん細胞を移植したマウスモデルでは、ICI投与7日目までは、がん増殖が抑制されますが、その後ICIに対する耐性を獲得し、腫瘍は急速に増殖します。ICIに抵抗性を獲得したがん細胞はPAI-1の発現量が非常に高いことが確認されました。実際に、ヒトの非小細胞肺がん切片において、ICI投与患者の方がPAI-1の発現が高いことが確認されています。

ICIに対する耐性を考える上で重要な病態に「がん細胞の上皮間葉転換(EMT)1)」があります。EMTはがん細胞がもともと持っていた上皮細胞としての特性を失い、浸潤性や遊走性の高い間葉細胞の性質を獲得するプロセスです。EMTを起こしたがん細胞は、抗がん剤やICIが存在する環境下でも生き残りやすく、薬剤耐性を獲得する主要なメカニズムの一つです。非小細胞肺がんに限らず、多くのがんにおいて抗がん薬により誘導され、その治療抵抗性獲得に要因となっています。

興味深いことに、ICIに対する耐性を獲得したがん組織ではEMTが誘導されていましたが、RS5614の投与でEMTが抑制され、Tリンパ球の活性化、腫瘍浸潤マクロファージの現象、がん細胞上のICの発現低下など、腫瘍免疫微小環境(TIME) 2) の改善、腫瘍免疫の活性化をもたらすことが明らかになりました。RS5416がさまざまながんにおいて抗がん剤やICIに対する耐性獲得を改善する治療薬となる可能性を示唆し、がん治療における非常に重要な知見と考えます。

当社は、複数の抗がん剤治療歴を有する切除不能な進行・再発の非小細胞性肺がん患者を対象に、ニボルマブとRS5614との併用投与の有効性及び安全性を検討する第Ⅱ相試験を、2023年9月から広島大学、島根大学、岡山大学、鳥取大学、四国がんセンター、広島市民病院で実施しており(治験調整医師:広島大学病院呼吸器内科 服部 登教授)、患者の登録を終了しました(2025年6月30日開示)。今後、投与期間を経て、本試験の評価、データ解析の結果を治験総括報告書に纏める予定です。

1) 上皮間葉転換(EMT)
細胞と細胞が接着することによって組織を形成している上皮細胞が、可動性の高い間葉系の細胞に変化する現象です。組織の線維化、がんの浸潤、転移を促進する一つのきっかけとなります。

2) 腫瘍免疫微小環境 (TIME)
がん細胞と周囲の細胞の相互作用により、正常組織とは異なった組織の状態をいいます。抗がん薬により、がん細胞が免疫の攻撃を受けにくい状態になり、抵抗性獲得の一つの要因であると考えられています。