悪性黒色腫は、表皮にある色素を作るメラノサイトと呼ばれる細胞が悪性化したがんで、皮膚がんの中でも転移率が高く、きわめて悪性度が高いとされています。全国がんセンター協議会の調査(2010~2014年集計)によれば5年生存率はステージ3(リンパ節や周囲の皮膚・皮下に転移があるステージ)で54.7%、ステージ4(他の臓器に転移があるステージ)で8.3%と治療が極めて困難な疾患です。
悪性黒色腫は悪性度が高く治療が困難な疾患ですが、2014年に免疫チェックポイント阻害薬である抗PD-1抗体が承認され、それに続く新薬の開発により薬物療法は画期的に進歩しました。抗PD-1抗体(免疫チェックポイント阻害薬、ニボルマブ、商品名はオプジーボ)など免疫チェックポイント阻害薬は、免疫のブレーキ(免疫チェックポイント分子)を解除して、免疫ががんを攻撃できるようにします。
日本における悪性黒色種は欧米とは異なり、ニボルマブが効きにくいタイプの末端黒子型の比率が高いため、ニボルマブの効果は十分ではなく、さらにニボルマブが無効な患者に対する新たな二次治療法の開発が望まれています。
現在、ニボルマブの併用薬として、別の免疫チェックポイント阻害薬である抗CTLA-4抗体イピリムマブの併用が保険適応で認められており、ニボルマブとの併用による奏効率は33.3%と、ニボルマブ単剤の20%と比べて高いですが、併用患者の約70%で重度の免疫関連副作用が発症することが問題となっています。
さらに、2種類の高額な抗体医薬を使用しなければなりません。そのため、副作用が無く、奏効率を向上でき、抗体医薬より安価な、内服で使用できる簡便な併用薬の開発が望まれています。
当社は、PAI-1が免疫チェックポイント分子を介してがん免疫を阻害することを見出しました。動物モデルでの試験で、RS5614が悪性黒色腫や大腸がんなどの腫瘍の増殖を阻害すること、さらに免疫チェックポイント阻害抗体単独でも腫瘍の増殖が阻害されますが、免疫チェックポイント阻害抗体にRS5614を併用することで相乗的にがん免疫が増強されました。
その結果、RS5614と免疫チェックポイント阻害抗体の併用により、がんの増殖が強く抑制され、がん腫によっては腫瘍が退縮しました。PAI-1阻害薬は抗PD-1抗体が作用し易いように腫瘍内免疫環境を改善することが明らかとなりました。
第Ⅱ相試験
NPO法人「Japan Skin Cancer Network(JSCaN)」を立ち上げて悪性黒色腫の治療成績向上のために連携している東北大学、筑波大学、都立駒込病院、近畿大学、名古屋市立大学、熊本大学と共同で、一次治療無効(根治切除不能で抗PD-1抗体不応答)悪性黒色腫患者を対象としたTM5614とニボルマブ併用時の忍容性及び安全性の確認を目的とする第Ⅱ相試験を、AMEDの助成を受け、多施設共同医師主導治験として実施しました。
本治験の結果、RS5614をニボルマブと8週間併用することにより、29例の患者のうち7例において奏効(24.1%)が確認され、ニボルマブとイピリムマブの併用の奏効(海外21%、国内13.5%)を凌駕する結果が得られました。
さらに、ニボルマブとRS5614の併用により62%という高い病勢制御率も得られました。一方、ニボルマブとイピリムマブ併用で生じる重篤な免疫関連副作用は認めませんでした。本治験の結果は科学誌『British Journal of Dermatology』に掲載されました。
本治験の結果から、厚生労働省より悪性黒色腫に対する希少疾患用医薬品指定を受けました。希少疾患用医薬品指定を受けたことにより、悪性黒色腫治療薬としてのRS5614の薬価算定における市場性加算が加わり、さらに承認後の再審査期間が延長されて本治療薬事業の独占期間が長くなります。
第Ⅲ相試験
現在、根治切除不能悪性黒色腫患者124例を対象に、ニボルマブとRS5614との併用の有効性及び安全性を検証する第Ⅲ相試験を、ランダム化プラセボ対照二重盲検試験として、東北大学病院など国内18施設で実施しています。
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所の令和7年度希少疾病用医薬品等試験研究助成事業に、第Ⅲ相試験を対象とした申請が採択され、2025年4月~2028年3月の間の3事業年度において、悪性黒色腫の関連研究費として支出した経費の2分の1を上限とし、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所の当該事業予算の範囲内で事業年度毎に助成を受けられます。
台湾における薬事承認を視野に台北医学大学とブリッジングスタディを実施するための契約を締結しました。
現在、台北医学大学が主体となって、台湾の規制当局であるTaiwan Food and Drug Administration (TFDA) と臨床試験に向けた協議を進めています。